ガイストスキャナー


アクアリウム

3 リンダ


12月も半ばに差し掛かっていた。ジョンの容態は比較的落ち着いていたものの、医師達の話によれば、いつ急変するかわからない危険性を孕んでいた。骨髄バンクの登録者には、ジョンの白血球の型と適合する登録者はいなかった。家族や知人はもちろん、CIAや軍の関係者にも声を掛け、検査を行ったが該当する者はいなかった。

「あれだけの才能を持った子どもを死なせるなど、国家にとって多大なる損失だ。何としてもドナーを探し出せ!」
それは絶対の命令だった。しかし、何度調べ直しても骨髄提供者は見つからない。
「他に方法はないのか? もっと他にデータは……。国内外を問わず、徹底的に探すんだ」
そこへ若い情報部員が一冊の資料を持って来た。

「これは?」
「地方の病院の個人データです。家族の中に骨髄移植が必要となり、協力を名乗り出た者達の検査結果です。残念ながら必要としていた家族とは一致せず、のちにバンクへの登録も行っていない者達の情報の一部なのですが、一つ、気になるデータがあります。ここを見てください」
彼が示した表のHLAの型は、ジョンのそれと一致していた。
「本当か?」
家族以外の者との適合率は数百〜数万分の1と稀だったからだ。そして、ジョンのそれは希少な型だった。

「リンダ コリンズ 13才……。子どもか。だが、もしこのデータが正しければジョンの命を救うことができるかもしれない」
デニスはすぐに行動を起こした。


「ねえ、ママ。クリスマスツリーにはもう明かりを灯した?」
ベッドの中でうとうとしていたジョンが目を覚まして訊いた。
「いいえ、まだよ。キャンベルが、あなたが退院して家に戻って来るまでは点灯しないって……」
「そう……」
「それに、クリスマスイブにはパパもお帰りになるし……」
「……そうだね」
ついこの間まであれほど輝いていた少年の瞳は、どこかぼんやりとして、遠い霞みの向こうの世界を見ているようだ。

「夢を見たんだ」
ジョンが言った。
「ぼくは魚になって深い海の底を泳いでいるんだ。ずっと青い水の向こうまで行ったんだよ。その時、ぼくは何もかも自由で……。そうだ。新しいツリーの飾りは魚のモビールがいいな」
「そうね。探してみるわ」
母親は小さな息子の手を撫でながら約束した。
淡い砂のような時間が流れていた。どんなに大切にしていても、いつかは壊れ逝く危うさの中で……少年は眠っていた。


ケルビン デニスはその日のうちに1300キロ離れた街に住むリンダ コリンズに連絡を取った。
「突然の失礼をお許しください。しかし、事態は急を要しているのです。今、10才の少年が白血病で死に掛けています。彼を救うにはもう骨髄移植しかありません。そこですべてのデータを調査しました。そして、我々はついにその子の型と合致するドナーを見つけました。それがリンダ コリンズ、あなただったのです。弟さんのことはお気の毒に思います。もし、あなたに少年を救う意思があるなら協力していただけませんか?」

――「それは……。でも……」
電話の向こうで少女は戸惑っていた。それはそうだろう。突然、見も知らぬ、それもCIAだと名乗る男から電話が掛かって来て、いきなり骨髄を提供してくれと言うのだ。
「もちろん、これは強制ではありません。あなたと、ご両親の合意がなければできないことなのです」
――「それでその子が救われるのなら、わたしは構いません。でも、できれば20日まで待っていただけませんか? その日に空手の大会があるんです」
「20日……」

ジョンの方は一刻の猶予もなかった。もし、その間に容態が悪化すれば移植どころではなくなってしまう。だが、少女の事情も考慮しなければならない。

彼女は空手ジュニア部門の州大会で優秀な成績を収めた。将来有望な選手だった。この大会での結果が来春行われる全米大会への足掛かりになることは確かだった。しかし、今はジョンの命を優先しなければならない。何としてでも彼女を説得する必要があった。デニスはそれを少女に告げようとした。しかし……。

――「わかりました。もう猶予がないのですね? わたし、協力します。承諾書をファックスで送っていただけば、両親にサインをしてもらってすぐに病院へ向かいます。それでいいですか?」
リンダは明快な答えを出して来た。
「ありがとう。感謝します」
手続きはただちに実行された。


そして、詳細な検査の結果、ジョンとリンダの白血球の型は完全に一致していることがわかった。
「まさに奇跡だ。これなら十分に希望が持てる。すぐに準備に取り掛かろう」
エルビン医師の表情も明るかった。

移植を受け入れるためには体内に残っている幼弱白血球を除去する必要があった。早速、放射線を照射して変異細胞を死滅させる治療が始まった。ところが、その放射線照射でジョンの容態が急変した。

治療のためには変異した細胞だけでなく、病気に侵されていない細胞ごと死滅させることになる。結果、一時的に患者は免疫を失うことになるのだ。無論そのための手段は講じられていた。が、もともと弱っていた子どもの体力が持たなかったのだ。

「先生、患者の血圧が低下しています!」
「脈拍38。このままでは……」
照射はあと僅かで完了するところだった。エルビンはグラフの波形を見据えながら苦渋の選択を迫られた。このまま続行すれば命を亡くすことになるかもしれない。かといってここでやめれば助かるという保証もない。いや、それどころか半端に残した病変がある限り移植はできず、抵抗力を持たないまま長時間置くことは危険だ。彼は決断した。

「照射を続ける。ただし、あと一回で終わりにする。いいな?」
医師らの懸命な治療によって、何とか危険を脱したジョンは無菌室に移され、厳重な管理のもと、移植する骨髄液が届くのを待っていた。

しかし、今回のリスクは大きかった。このまま移植をしたとしても、果たして彼の体力が持つのか、拒絶反応に耐えられるのか、そして、意識は戻って来るのか。すべては未知数のまま……。少年は未だガラスの中で眠っていた。


一方、骨髄液の採取は滞りなく行われた。少女の身体にも問題はなかった。
「ありがとう。あなたの勇気ある決断が一人の少年の命を救ったのです」
デニスが言った。しかし、金髪碧眼の少女ははっきりと言った。
「でも、まだはっきり助かるかどうかはわからないのでしょう? 移植そのものより、その後に現れる拒絶反応や感染症で命を落とすケースがあるってドクターが言っていました」
「確かに、その通りです。しかし、もしあなたからの提供がなければ、少年に未来はなかった」
「その子に会わせていただけませんか?」
「それは規則なのでできません」
男は無表情のまま答えた。
「わかっています。でも、一度だけでいいんです。遠くからそっと見るだけでも……」
彼女は亡くした弟のことを思っていたのかもしれない。しかし、男は承知しなかった。

「残念ですが、それはできません。その代わりといっては何ですが、あなたの父親の借金があなた方母子に及ばないよう話をつけておきました。今後のことは何も心配せずに、あなたは学校に通えるでしょう」
「それってどういう……」
リンダは疑問に思った。

そもそもその少年の移植に何故CIAが関わっているのか。何故彼女の父の借金のことを知っているのか。闇で金銭が動いている。その少年とは何者なのか。少女には解せないことばかりだ。

彼女の父は元は真面目で実直なエンジニアだった。その腕は会社からも顧客からも信頼されていた。ところが、去年、息子のトニーが白血病で亡くなった。骨髄移植をすれば助かるかもしれないと医者は言ったが、一致するドナーが見つからなかったのだ。無論リンダをはじめ、家族全員の白血球の型を検査した。が、誰とも一致しなかった。トニーが死んだ時、リンダも母も気が狂わんばかりに泣いた。トニーはやさしくて素直ないい子だった。その弟が病気で死ぬなんてあまりに理不尽だと彼女は思った。悲しみは未だに癒えてなどいない。

しかし、そのことで最もショックを受けたのは父親だった。彼はまるで人が変わってしまったように自暴自棄になってしまったのだ。仕事にも行かず、朝から酒を飲んでは母や娘に暴力を振るうようになった。外で喧嘩をしたり、借金を作ったり、一家の生活も滅茶苦茶になった。しかし、リンダにとってショックだったのは、父の愛情が弟一人に注がれていたという事実だった。信じていた愛情や幸福は偽りの砂の上に構成されていた虚像でしかなかったのだ。

窓の向こうには青い空が広がっていた。そこに流れる飛行機雲。それを追うように子ども達の歓声が聞こえた。
「では、その子に伝えてください。病気に負けることなく生きて、きっと幸せになって欲しいって……」
「わかりました」
そう言うとデニスは背中を向け、少女の前から立ち去った。


ガラスの中の液体はゆっくりと少年の身体に浸透して行った。懸念された拒絶反応も起きず、彼はただ静かに眠っていた。

――ぼくは魚……

切れ切れの意識の中で、ジョンは何かを探していた。

――ママはどうして泣いているんだろう? エルビン先生は何故難しい顔をしているの?

すべてはガラスの窓の向こう側。その声までは聞こえなかった。

――ぼくは今、こんなにも自由なのに……

ふと見ると高い天井の奥に光る星が見えた。

――あれはきっとクリスマスツリーの星だ

彼は手を伸ばして掴もうとした。しかし、近づくとその星は遠ざかり、さらに追うとまた上に昇った。

――行かないで!

ジョンはどんどん上に昇った。どうしてもその星が欲しかった。その星を持って帰って、家のもみの木に飾ろうと思ったのだ。

――すごいや。まるで大きなクリスマスツリーみたい……

暗い空にたくさんの星が、まるでイリュミネーションのように輝いていた。

――何てきれいなんだろう……

彼はその星達の輝きが欲しかった。その一つ一つが自分を招いているように見えた。

――駄目よ! その光に触れては駄目!

不意に誰かが言った。

――誰?

霞みの中に金髪の少女が見えた。

――戻って来るのよ
――どうして?
――あなたはもっと生きるの
――生きる?

それがどういう意味なのかジョンは考えた。

――わからないよ、ぼく

すぐ目の前にあった星が流れて行った。

――あっ、みんないなくなっちゃう

彼の周囲に流星群が降り注ぐ。見るとその一つ一つがみんな魚だった。彼らは長い尾を引いて、銘々の方向に泳いで行った。その先に何があるのかもわからないままに……。

――待って! ぼくも行くよ。連れて行って……

伸ばしたその手を誰かが掴んだ。

――駄目!

さっきの女の子だ。

――どうして?
――あそこに行ったら死んじゃうのよ!
――死ぬ?

ジョンの中に立ちのぼる闇。

――どうしてそんなこと言うの? ぼくだって死ぬのはいやだ! 怖いよ!

突然、目の前の闇が反転し、白い世界が広がった。
白いベッド。四角い壁。そして透明な液体……。ガラスの部屋に寝かされている自分。身体が酷く重かった。瞼を開けることさえ困難で、息をするにも苦痛が伴う。
(死ぬのはいや……。でも、苦しい……。疲れた。眠らせて……)

――生きて

またあの声が聞こえた。

――生きるのよ

(何故君はそんなこと言うの? ぼくは君を知らないのに……)
「だ…れなの……?」
少年が目を開けた。そこに映る金髪の影。

――わたしはリンダよ

(リンダ……)
透ける点滴のガラスに映る金色の影……。少年はじっとそれを見つめた。


「目を開けてる。気がついたんだ」
ガラスの向こうで誰かが叫んだ。
「ジョン! わかるか? パパの声が聞こえるか?」
その声は水の中を通したように歪んでいた。

「パ…パ……?」
ジョンがゆっくりと答える。その声をマイクが拾った。
「答えたぞ。わかったんだ。意識が戻って来た。すぐにエルビン先生に連絡を……」
途端に周囲が慌ただしくなった。窓ガラスの向こうではたくさんの目がこちらを見つめている。

(水族館にいる魚達は、いつもこんな風に人間達から見られているのかな?)
いやな気はしなかった。が、それがいいということでもない。ただゆっくりと流れて行く水の中で浮遊している。そんな気がした。

「ジョン、誕生日おめでとう! ここにママもいるよ。わかるかい?」
父親が言った。確かにその隣にいるのは母だとわかった。

――誕生日おめでとう!

(それじゃあ、今日はクリスマスイブ? だからパパが帰って来たんだ。パパが帰って……)
ジョンは何か言おうとして口を開いた。が、結局何も言わないまま、また眠りについた。瞼の裏に焼きついた少女の顔が微笑する。
(そうだ。リンダにぼくの名前、教えるの忘れた……。今度会ったらきっと言おう……。ぼくはジョン フィリップだって……)


少年は順調に回復していた。
「家に帰ったら、ツリーの下を見てごらん。パパからのプレゼントがあるからね」
「プレゼント?」
「そうさ。ここに持って来る訳には行かないからね。おまえが早く元気になってこの無菌室から出られるようにならなければ……」
「うん。そうだね、パパ。ぼく、きっと元気になるよ」

あれほどまでにしつこく少年に纏わりついていたガイストの影はもう何処にもなかった。
(今度こそ諦めたのかな?)


年が明け、父はまた軍務に戻って行った。
「ねえ、ぼくに骨髄を提供してくれた人はどんな人なんだろう」
ある時、ジョンが訊いた。
「13才の女の子ですって……。ママもそれ以上のことは知らないわ」
「そう。女の子……」
それはあのリンダという子に違いないとジョンは思った。

――生きて!

「いつか会えるといいな。その子に……」

 電子機器に囲まれた部屋の中では、繊細でメタリックな時間が過ぎて行く……。
清潔で感情のない時間。管理されたガラスの中で生きる命……。

「コンピューター……」
少年が呟いた。それがあれば彼女を探せるかもしれないと思ったのだ。しかし、彼のコンピューターはここにない。CIAの男達が持って行った。
(いつ返してくれるんだろう)
泡立つ波のような時間の中で空想する。彼はネットの海を自由に泳ぎ回る魚だった。


「ミスター デニス」
リンダはニューヨークへ来ていた。
「やあ、あれからもう3週間か。元気そうだね」
「ありがとうございます。父の新しい仕事が決まったんです。今年からは新たな気持ちで頑張るって……。来週にはこっちへ引っ越すことになりました」
「そう。それはよかったね」
「はい。これも皆、あなたのおかげです。わたしが骨髄を提供することになって、一人の命が救われたこと。そして、借金のこと。すべてが良い方向に進んだんです。親子三人、今度こそ本当の家族になろうって……。あなたが紹介してくれた少年は、わたし達家族に幸運をもたらしてくれた幸福のエンジェルだったのかもしれません」
少女が微笑む。

リンダが決断したことは正しかった。一つのチャンスと引き換えにして手に入れた家族との幸福を彼女は忘れないだろう。そして、その一人の少女の勇気が一人の少年の命を救い、やがてこの国や世界を救うことになるかもしれないのだ。彼女には幸せになる権利がある。そうあって欲しいと男は思った。


そして、1月の末になると、ジョンは一般病棟へ移る準備を始めた。部屋の中で少しずつ身体を動かす訓練をしたり、車椅子でフロアを移動したりして、徐々に身体を慣らして通常の生活ができるようにして行く。

「今度の検査結果が良ければ、来週の初めには一般病棟へ移れるわよ」
担当のナースが教えてくれた。
「ほんと?」
「ええ。きっと午後の回診の時、エルビン先生からお話があると思うわ」
ジョンにとっても少しずつ希望が見えて来た。

「少し廊下をお散歩しましょうか」
そう言うと彼女はベッドに車椅子を寄せた。

フロアの廊下は塵一つない状態に保たれていた。免疫力の弱い患者が収容されているこのフロアに入るためには厚い扉の向こうで念入りな消毒や殺菌が義務付けられている。関係者以外立ち入り禁止の区画になっていた。家族の面会時間も限られているため、ジョンはずっと寂しい思いをして来たのだ。一般病棟に移れば、その制限が緩和される。それが何よりもうれしかった。

「疲れたでしょう? そろそろお部屋に戻りましょうか」
長い廊下を往復して彼女が言った。
「もう一度」
少年がねだった。
「ねえ、いいでしょう? もう一度」
「そうね。気分が悪くないなら行ってみましょうか」
「うん」
彼女が車椅子を回してUターンしようとした時だった。扉の向こうに女の子の姿が見えた。

しかし、家族への面会時間にはまだ早い。窓の向こうから彼女はじっとジョンを見つめていた。
(あれは……)
「リンダ?」
少年が言った。

「ねえ、止めて。ぼく、あの子と話したい」
ジョンが首を上げて言った。
「誰なの? お友達?」
ナースが訊いた。
「わからない。でも……」
ジョンは扉の近くに行くとじっと少女を見た。

「君はリンダなのでしょう?」
「そうよ」
彼女が頷く。
「わたしの名前を知っているということは、あなたが骨髄移植を受けた少年なのね?」
扉に阻まれて彼女の声はくぐもっていた。
「そうだよ。ぼくはジョン フィリップ マグナム」
「ジョン フィリップ……」
彼女が口の中で復唱する。

「ぼく、来週にはここから出られるの。君が骨髄を提供してくれたから……。ぼく、とても感謝してるんだ。移植は苦しくて大変だったけど、君の声が聞こえたから、ぼくはがんばってここまで来れた。だから……。ねえ、何故黙ってるの? 君はぼくに会いに来てくれたんじゃないの? ぼくは待ってた。ずっと君が来てくれるのを待ってたんだ。だから、ねえ何か話して……」
「わたしは……」
リンダが言い掛けた時、突然、背後から近づいて来た男が彼女に何かを告げた。

「わかりました。すみません」
彼女が詫びた。はじめは病院の職員かと思った。が、それはCIAのデニス、あの男だった。
(どうしてここにあの人がいるの? 彼女に何を言ってるの? ここからじゃよく見えない)
ジョンは車椅子から立ち上がると扉の取っ手に捕まった。
「ジョン! 駄目よ」
慌ててナースが彼を戻そうとする。窓の外では二言三言会話した彼女が背中を向けて立ち去ろうとしていた。

「待って!」
ジョンが叫んだ。その声にリンダが一瞬だけ足を止めた。
が、その脇ではデニスが厳しい顔をして彼女を見ている。
「また来てね! ぼく、待ってるから……きっとだよ」
ジョンの声は彼女にも聞こえた筈だった。しかし、リンダは振り向かず行ってしまった。彼女の姿が見えなくなると男が近づいて来て言った。

「ジョン、部屋に戻りなさい」
「リンダに何を言ったの?」
少年が訊いた。
「彼女と話したのか?」
「いいえ。ぼくの名前を教えただけです。それと、骨髄液をくれてありがとうって……」
「それで彼女も名乗ったのか?」
「いいえ。彼女は何も言いませんでした」

「では、何故彼女の名前がリンダだと知ってる?」
「それは……ぼくが死に掛けていた時、彼女が来て励ましてくれたんです。生きなきゃ駄目だって……。その時、彼女が教えてくれたんです。あのクリスマスイブの夜に……」
不思議な話だとデニスは思った。だが、ジョンは闇の風を使う能力者だ。可能性は否定できなかった。移植という特殊な交流が彼らの絆を強く結び付けたという可能性もあった。

リンダ自身は能力者ではない。が、その事実が少年にどんな作用をもたらして行くのか、今後の成り行きを見守り、観察して行く必要があると男は思った。